地方での鬼討伐任務に就いた名前。今回は同期の竈門炭治郎との合同任務だ。彼と会うこと自体久しぶりだったので、名前は少し緊張していた。なぜなら彼はここ数ヶ月ですっかり人気者になってしまったからだ。出会ったころから変わらない優しさと包容力、まっすぐな心。鍛え抜かれた身体に、綺麗な瞳。若い女性達が彼を見て頬を染めているなんて、誰でも知っていることなのだ。本人を除いて。



「名前!久しぶりだな!」
「竈門くん、久しぶりだね。元気そうで良かった。」
「ありがとう。名前も元気そうで良かったよ。今回はよろしくな。」
「よろしくね。」

当たり障りのない話をしながらお互いの近状を話した。竈門くんの話には、我妻くんや嘴平くんの名前が沢山でてきてなんだか安心した。でも、今日は竈門くんの背中には木箱が無いのだ。


「禰豆子ちゃんはどうしたの?」
「あー...、ちょっとな...」

竈門くんは人差し指で右頬を軽く掻きながら言いづらそうにしていたので、掘り下げることはせず「そっか」とだけ返しておいた。






それからは今回の任務について話をしながら道中を進んで、今日の目的地である藤の家紋の屋敷に着いた。


「や、やっと着いたね...。ちょっと疲れちゃったよ。」
「名前大丈夫か?頑張ったな。えらいぞ!」

竈門くんはそう言いながら、玄関で靴を脱いでいる私の頭を撫でてきたのだ。
思わず動きを止めて彼のほうをみると、綺麗な紅い瞳と目が合った。

(近くない?この距離......)

若干動揺して固まっている私に彼は優しい笑顔をみせながら「名前、どうした?」と一歩踏み込んで顔を覗きこんでくるものだから、さらに近くなる距離。彼の手はまだ私の頭の上で動いている。


「.............。」
「え?なんだ?名前?」
「.....なんでもない。ちょっと忘れてただけ。」
「ん...?」

今度は不思議そうな顔になった竈門くん。流石に頭を撫でるのをやめてくれたけど、距離を詰めたまま鼻をヒクヒクさせ始めたものだから、私はすぐに彼の鼻を摘んだ。


「竈門くん、それは反則。」
「あ゛ぃ゛」

鼻声に思わず笑ってしまって、ごめんごめんと言いながら手を離した。竈門くんはどこか面白くなさそうな表情をしながら、玄関まで迎えに来てくれた屋敷の方に着いていった。







「「おいしそうーー!!」」

屋敷の方が案内してくれた部屋には、向かい合うように二人分の食事が準備されていて、思わず叫んでしまった。すぐ我に返り竈門くんと一緒にお礼を言って、お食事を頂くことにした。


「なあ、名前。聞いてるか?」

食べることに集中しており、前に座っていたはずの竈門くんがいつの間か私の隣に来ていた。思わず箸を落としてしまった。横目で彼の食器をみると、全て空になっていた。はやい。

「びっくりした...。音も無く...さすが剣士。」
「いやいや、名前もだから!」
「うん、まあそうなんだけどもね。えっと、どうしたの?」
「だーかーら!さっき玄関で言ってた"忘れてた''って何のことか教えてくれよ。」

そういいながら、右側に座っている竈門くんは私の左手首を掴んで来たのだ。痛くは無いけど、逃す気も無い。そんな気持ちが伝わってくる。

「そんなに気になってたの?」
「うん。」
「ごめんね。でも、正直に言うと竈門くん気にしちゃうかなと思って...」
「大丈夫だ!俺は長男だから!!」
「うん?」
「ん?」
「うん、そうだね。長男だもんね。
あのね...竈門くんは"人との距離感が近い"ことを忘れてたの。だから、さっき突然頭撫でられてちょっと驚いたの。鼻を摘んだのは、驚いたのを知られるのが恥ずかしかったから。」


少し俯いたまま告げると、竈門くんが手首を掴んでいた手をゆっくり滑らせて、優しく私の指に触れてきたのだ。驚いて竈門くんをみると、真剣な表情をした彼と目が合った。


「名前、嫌だった...?」


竈門くんはそう言いながら、私の指に触れていた指を絡めてきた。
彼の瞳から、目を逸らせない。


「...っ、嫌じゃ、無かった。」


「...うん。」


竈門くんは指を絡めたまま、離さなかった。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -